普段から中国語会話をしていれば、それまで頭で意識して使っていた表現などを、全く意識せずに自然に使えるようになるものです。そして、このような表現を考えた場合、「把(bǎ)」が最も代表的なものかもしれません。
「把」の持つ基本的なイメージは「特定の物を掴む」ということであり、日本語で言えば「把握」という言葉からもそのイメージを十分理解できますね。しかし、中国語のレベルがある程度向上した方でも、認識を曖昧なままに使っている方も少なくないのです。ここでは、このイメージを強く念頭に置きながら、「把」で特に重要な用法を例文も交えて詳しくチェックしていきましょう。
介詞としての「把」のメジャーな用法
中国語の「把」を初めて学習する方は、動詞に繋ぐ介詞としての用法をまず理解されるはずです。つまり、一般的には「〜を」と日本語に訳すことができると認識している方が多いでしょう。
しかし、この用法は厳密に言うと、もう少し複雑な意味合いを持っており、特定の物・人・対象などに対して処理・処置を進めることを表します。例えば、
例文1:
A:小陈,昨天的客户的案件,你做好了吧?
B:是啊,我已经把它弄好了,我看客户也应该没意见吧。
A: Xiǎochén, zuótiān de kèhù de ànjiàn, nǐ zuòhǎo le ba?
B: Shì a, wǒ yǐjīng bǎ tā nònghǎo le, wǒ kàn kèhù yě yīnggāi méiyìjiàn ba.
A:陳さん、昨日のお客さんの案件、大丈夫ですか?
B:はい、すでに案件を処理しました。おそらく、お客さんも問題ないはずです。
例文2:
A:我们公司老是缺人,每天加班就我们累死了。
B:好像老板终于决定招人了,因为他已经把这个事情委托给人才中心了。
A: Wǒmen gōngsī lǎoshì quērén, měitiān jiābān jiù wǒmen lèisǐ le.
B: Hǎoxiàng lǎobǎn zhōngyú juédìng zhāorén le, yīnwèi tā yǐjīng bǎ zhègeshìqíng wěituō gěi réncáizhōngxīn le.
A:会社はいつも人手不足だね。毎日残業ではとても疲れるよ。
B:社長もいよいよ人材採用を決めたようだ。すでにこの件を人材会社に頼んでいるので。
例文3:
A:我家孩子每天只出去玩,回家也完全不做功课,太懒惰了。
B:其实你不能一直严格地把孩子管好,父母也要长期来看他的能力啊。
A: Wǒjiā háizi měitiān zhǐ chūqùwán, huíjiā yě wánquán búzuò gōngkè, tàilǎnduò le.
B: Qíshí nǐ bùnéng yīzhí yángéde bǎ háizǐ guǎnhǎo, fùmǔ yě yào chángqí lái kàn tā de nénglì a.
A:うちの子供は毎日遊びに行ってばかりで、家に帰っても宿題もやらずに怠けてばかりなんだ。
B:実際、子供はそんなにずっと厳しく管理できないさ。両親とも長い目で子供の能力を見てあげないとね。
上記の例文で分かるのは次の2点です。
(1)「把」の後に来るのは代名詞や、連体詞に続く名詞、または会話当事者が把握できる総称的な単数名詞であること。
※ 特に、上記の例文3にある「孩子」は、ここでは会話上で当事者が認識できる総称的な名詞として使われており、子供が何人いたとしてもこのままで表現します。
(2)動詞は原形の裸の状態ではなく、必ず「状態」や「程度」、「変化」などが認識できる形で使われていること。
※ 動詞の形は実に様々なものがあり、例えば「做一下」のように動詞の後に程度を表す単語を付け加えることでも表現できます。
また、動詞の使い方に関しては、次のような例文パターンもよくチェックしておきましょう。
例文4:
A:那位是新入职的同事吧,听说她蛮优秀。
B:没错啊,那个人把这些谁都做不好的作业做得很简单。
A: Nàwèi shì xīnrùzhí de tóngshì ba, tīngshuō tā mányōuxiù.
B: Méicuò a, nàgèrén bǎ zhèxiē shéidōu zuòbùhǎo de zuòyè zuò dé hěnjiǎndān.
A:あの人は新しく入った仲間だね。彼女はすごく優秀らしいね。
B:そうなんだよ。あの人、このような誰もがやりにくい作業を簡単にこなしてしまうんだ。
※ 一見特定しにくい名詞節であっても、「这些」という連体詞を付け加えて表現すれば問題ありません。また、動詞も「得」を使って副詞を付ければ上手に表現できるのです。
例文5:
A:赵先生,上次你说的好东西,我今天带过来了。
B:哦,是吗?那我先把它拿着看吧。
A: Zhàoxiānshēng, shàngcì nǐ shuō de hǎodōngxī, wǒ jīntiān dàiguòláile.
B: Ó, shì ma? Nà wǒ xiān bǎ tā názhekàn ba.
A:趙さん、前回仰られていた良いモノ、今日持参しましたよ。
B:おー、そうなんだ?じゃあ、先に手に取って拝んでみようかな。
※ この使い方は非常にスマートな表現で、本来は「見る」や「聞く」などの感覚動詞に「把」を直接使うことができませんが、手に取るという意味を持つ「拿」という動詞を用いて上のように合体させると使えるようになるパターンです。
例文6:
A:小杨,今天的事情怎么样呢?我觉得还不错耶。
B:好吧,那我把它考虑考虑吧。
A: Xiǎoyáng, jīntiān de shìqíng zěnmeyàng ne? Wǒ juédé háibúcuò yé.
B: Hǎo ba, nà wǒ bǎ tā kǎolǜkǎolǜ ba.
A:楊くん、今日の件はどう?僕はなかなか良いと思うんだが。
B:そうですね。じゃあ、検討させてもらいます。
※ 上のように基本的に動詞単体で使うことができなくても、動詞を重複して表現できる場合であれば大丈夫です。
まとめますと、介詞として「把」を使う場合、「把」の後に接続できる名詞タイプはもちろん、動詞を原形単体で使うことが非常に不自然である点も理解しなければなりません。
非常に多く使われる動詞としての「把」
上述の介詞としての用法と比較した場合、意外に忘れられがちなのが「把」が動詞として機能する用法かもしれません。すでに冒頭の基本イメージでも述べたように、目的語を「把握する」「掴む」「監視する」などの意味を持ちます。早速例文を見てみましょう。
例文7:
A:外婆,今天我们帮你在楼梯装好长扶手了。
B:哦,我可以把一下扶手来下楼梯呢,这方便多了。
A: Wàipó, jīntiān wǒmen bāng nǐ zàilóutī zhuānghǎo chángfúshǒu le.
B: Ó, wǒ kěyǐ bǎ yīxià fúshǒu lái xiàlóutī ne, zhè fāngbiànduō le.
A:お婆ちゃん、今日は階段に長い手すりを設置したよ。
B:おー、手すりを掴むだけで階段を下りられるので、ずいぶん便利になったね。
※ ここでの「掴む」という意味は、物理的なものだけでなく、権利や権力などの形の無いものにも使えます。
例文8:
A:最近出货多了,我们品管工作量也蛮多啊。
B:确实难做啊,但我们一定要把关一下。
A: Zuìjìn chūhuò duōle, wǒmen pǐnguǎn gōngzuòliàng yě mánduō a.
B: Quèshí nánzuò a, dàn wǒmen yīdìng yào bǎguān yīxià.
A:最近出荷が増えたね。品質管理の量もとても多いよ。
B:確かにやり難いね。でも、絶対により厳しく検査しないとね。
※ もともと、「把关」は門や関所を監視するときに使う表現ですが、転じて、品質管理や出入国の審査などあらゆる検査の局面で使われることも多いでしょう。
また、下の例文の表現パターンも使い方が大変面白いです。
例文9:
A:我们部门主管太离谱,他好像我做的什么都不赞成一样。
B:我看他嫉妒你了,因为你比他处理的快,而且他没办法把你怎么样了。
A: Wǒmen bùmén zhǔguǎn tàilípǔ, tā hǎoxiàng wǒ zuò de shénme dōu búzànchéng yīyàng.
B: Wǒ kàn tā jídù nǐ le, yīnwèi nǐ bǐ tā chǔlǐ de kuài, érqiě tā méibànfǎ bǎ nǐ zěnmeyàngle.
A:課長はひどいな。俺がやることなすことにすべて反対しているようだ。
B:おそらく課長は君に嫉妬しているのさ。君はあの人より仕事も速いし、君をどうすることもできないんだから。
※ これは「怎么样」を疑問詞としてではなく、「どうにかする」という意味を持つ動詞として用いるパターンですが、「把」と組み合わせることで会話でも非常に使えます。
さらに、少し俗語的な表現になりますが、次のようなパターンもよく使われます。
例文10:
A:小郭,你每周末很忙哦,难道又去把妹吗?
B:没有啊,我也还有很多事情做耶。
A: Xiǎoguō, nǐ měizhōumò hěnmáng ó, nándào yòu qù bǎmèi ma?
B: Méiyǒu a, wǒ yě háiyǒu hěnduō shìqíng zuò yé.
A:郭くん、週末はいつも忙しいんだね。まさか、また女の子をナンパしに?
B:ちがうよ。俺だって他にすることはたくさんあるんだ。
※ いわゆる女性を「ゲット」するという表現ですが、目的語が変わるだけで意味合いが大きく変わる「把」の動詞用法において分かりやすい例です。
名詞や量詞としての「把」の使い方
さて、「把」には名詞としての働きもあります。しかし、そのほとんどが物を掴むときに使う「取っ手」と言う意味で使われるでしょう。
例文11:
A:师傅,这个工具不好用啊,你平时怎么用呢?
B:你先抓好那把子,要不然你怎么也不好用啊。
A: Shīfù, zhège gōngjù bùhǎoyòng a, nǐ píngshí zěnme yòng ne?
B: Nǐ xiān zhuāhǎo nà bǎzi, yàobùrán nǐ zěnme yě bùhǎoyòng a.
A:親方、この工具使いにくいですよ。普段どう使っているんですか?
B:先にその取っ手をよく握って。そうしないと、どうやっても使えないぞ。
※ ちなみに、「一把子」などと表現すると、1つの束や塊、集まりを意味する場合もあります。
また、量詞としての用法も存在しており、主に細長い棒状になっている「掴み」やすいものを数えるときに使われます。
例文12:
A:你帮我一下,我要处理一些事情。
B:我现在很忙呢,我先做菜啊,你才快给我一把刀。
A: Nǐ bāng wǒ yīxià, wǒ yào chǔlǐ yīxiē shìqíng.
B: Wǒ xiànzài hěnmáng ne, wǒ xiān zuòcài a, nǐ cái kuài gěi wǒ yībǎdāo.
A:ちょっと手伝ってくれよ。処理しなければならないことがあるんだ。
B:私は忙しいの。先に料理を作るからね。あんたこそ早く包丁を取って。
例文13:
A:我今天要打扫房间,有什么好工具呢?
B:这里好像没什么,哦,有一把扫把借给你。
A: Wǒ jīntiān yào dǎsǎo fángjiān, yǒu shénme hǎogōngjù ne?
B: Zhèlǐ hǎoxiàng méishénme, ó, yǒu yībǎsàobǎ jiègěi nǐ.
A:今日部屋の掃除するんだけど、何か良い道具はない?
B:ここには何もないようだけど。ああ、ほうきが1本あったから貸してあげるよ。
まとめ
特に介詞としての「把」を会話で意識的に使う場合、上手に使うためのコツは「这个(zhège)」や「那个(nàgè)」などの連体詞をあえて習慣的に一緒に発声するということです。例えば、「我把这个~」や「她把那个~」などのように会話の冒頭からセットで使い始めるパターン。このようにすることで、会話の相手も話の中の対象を特定しやすくなるだけでなく、伝える側も「把」に呼応する動詞を自然な形で発声できるようになります。
また、中国語のレベルをよりブラッシュアップするには、動詞としての「把」の用法を確実に理解したいところ。中級学習者であれば、会話の中に積極的に組み入れることで現地人とより深い交流も望めるようになるでしょう。
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